【Ep.3】天下布武への道 ~室町幕府の終焉と新時代の夜明け~

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全体構成案(シーン概要)

  1. シーン1「美濃攻略への布石」
    • 桶狭間の戦いで今川義元を討ち取った織田信長は、次なる目標として美濃(みの)国(現在の岐阜県)を狙う。
    • 美濃の斎藤氏との対立が激化し、信長軍の足軽・太郎たちは厳しい戦いに挑む。
  2. シーン2「足利義昭との出会い」
    • 流浪の身となった室町幕府15代将軍候補・足利義昭(あしかが よしあき)と信長が接触。
    • 信長は義昭を擁立して“天下布武”を実現する足がかりにしようと考える。
  3. シーン3「将軍就任と京の新秩序」
    • 義昭が京都で将軍に就任。信長は“天下布武”の印判を掲げ、室町幕府の再建を試みるが、徐々に義昭との思惑がずれ始める。
    • 朝廷や公家、他の大名との交渉が複雑に絡み合い、京の情勢が緊迫する。
  4. シーン4「義昭追放と室町幕府の終焉」
    • 義昭は諸大名に呼びかけて“反信長包囲網”を築こうとするが、信長はそれを封じ込め、義昭を追放。
    • これにより実質的に室町幕府が終焉し、“新時代”への道が開ける。
  5. あとがき
    • 信長が追い求めた「天下布武」とは何か? 足利義昭や幕府の終わりが持つ歴史的意味を振り返る。
  6. 用語集(歴史を学ぶうえで重要な用語の解説)
  7. 参考資料

登場人物紹介

  • 織田信長(おだ のぶなが)
    尾張(おわり)国の戦国大名。桶狭間の戦いで今川義元を破って名を挙げる。革新的な戦術と大胆な行動力で勢力を拡大していく。
  • 足利義昭(あしかが よしあき)
    足利家の一門。室町幕府15代将軍になる人物。兄・義輝(よしてる)が暗殺された後、各地を流浪し、保護者となってくれる有力大名を探していた。
  • 太郎(たろう)
    尾張出身の下級足軽。前回(桶狭間の戦い)で信長軍の一員として従軍した。今回も厳しい戦いに身を投じるが、その一方で天下の行方をつぶさに見守る。
  • 斎藤龍興(さいとう たつおき)
    斎藤氏の当主。美濃の国を支配していたが、信長の攻略に苦戦。かつての父・道三(どうさん)の時代の威光を取り戻そうとする。
  • 明智光秀(あけち みつひで)
    流浪中の義昭を支えた武将。文武に優れ、義昭と信長の間をとりもつ役割を担う。
  • 柴田勝家(しばた かついえ)・池田恒興(いけだ つねおき)
    織田家の重臣たち。信長の求める“新時代”の到来に期待しながらも、その過激な手法に不安を抱える。

本編

シーン1.美濃攻略への布石

【情景描写】
尾張の熱気を背中に受け、織田信長は美濃への軍を動かしていた。野山が連なる美濃の地は要害堅固(ようがいけんご)で、斎藤氏の居城・稲葉山城(いなばやまじょう)は高い山の上にそびえる。小高い丘から見下ろすその姿は、まるで侵入者を拒むかのように厳粛だった。

信長の陣は丘の麓に広がり、槍や鉄砲を携えた兵士たちが慌ただしく行き来している。下級足軽の太郎は簡素な陣幕(じんまく)の傍らで、息を整えながら革袋の水を飲んでいた。

【会話】

  • 【太郎】(息をつきながら)
    「ここまで来るのに、もう何度も小競り合いがあった。美濃の道は険しいな……。」
  • 【柴田勝家】(地図を見つめながら低い声で)
    「美濃には川や山が多い。斎藤龍興はまだ若いが、父・道三から学んだ守りの要点は理解しているはずだ。ここからが正念場よ。」
  • 【織田信長】(勝家の脇に立ちながら)
    「ふん、何度門を叩いても落ちない城はない。焦らずとも、やがて奴らは動揺する。斎藤の兵糧や民の心は、すでに限界に近いらしいからな。」
  • 【太郎】(心の声)
    「信長様は“天下布武”――天下に武を布(し)く――を掲げ始めたという噂がある。ここを押さえれば、さらに大きく勢力が広がるだろう。だけど……本当に、そんなにうまくいくのだろうか。」

やがて空が夕焼けに染まるころ、信長は軍勢を二手に分け、夜襲の準備を始める。稲葉山城下への急襲策だ。斎藤方の守りが思いのほか手薄な箇所を見抜き、そこを突破口とする計画らしい。柴田勝家が陣頭指揮を執り、太郎たち下級足軽もそこへ加わることになった。


シーン2.足利義昭との出会い

【情景描写】
美濃攻略が進むなか、信長のもとに一人の武将が訪れた。名を明智光秀という。洗練された身なりと穏やかな言葉づかいが印象的だが、その背後にはもう一人の男性の姿があった。足利義昭――室町幕府の正統な将軍候補だという。

美濃の野営地に設けられた信長の本陣。簡素な白い陣幕の奥で、信長は義昭と対面する。回りでは勝家や恒興、さらには警護の兵が緊張感を漂わせていた。

【会話】

  • 【足利義昭】(落ち着いた口調で)
    「織田殿、はじめまして。私は足利義昭と申します。兄・義輝が亡き今、室町幕府を建て直す役目を担うべく、各地を放浪しておりました。ここまで来るのに、いくつもの苦難があり……。」
  • 【織田信長】(不敵な笑みを浮かべ)
    「足利様とやら、わしはご公儀(幕府)に仕えるつもりはあまりないが……まぁ、将軍家を担ぐことで大義名分が得られるなら、使わせてもらおうか。」
  • 【明智光秀】(義昭のそばで静かに)
    「信長様、義昭様は将軍職に就くことで乱世を収めたいという強いお気持ちがあります。しかし、幕府の力は今は弱く、朝廷や諸大名の支持を得るのは容易ではありません。どうかお力添えを……。」
  • 【織田信長】
    「ふん、なるほどな。都(京)に戻り、将軍としての権威を示すか……それは面白い。わしにとっても悪い話ではない。なにせ“天下布武”のためには、あの都を治める必要がある。」

そのとき、傍らで控えていた柴田勝家が口をはさんだ。

  • 【柴田勝家】
    「殿、美濃の戦いはまだ終わっておりませぬ。まずは稲葉山城を手中に収めねば……。」
  • 【織田信長】(にやりと笑って)
    「わかっておる。龍興(たつおき)を追い出し、この地を拠点に新たな城を築く。そのときには“岐阜(ぎふ)”と名を変えよう。天下への入り口にふさわしい地名を考えているのだ。」

足利義昭は信長の大胆な発想に驚きつつも、その行動力に大きな期待を寄せる。光秀の横顔にも、何か決意のような光が宿っていた。

遠くの夜空には、なおも稲葉山城の方角で火の手があがる。太郎は陣幕の外からその赤い空を見つめ、(大きな時代の流れが動き出している……)と感じていた。


シーン3.将軍就任と京の新秩序

【情景描写】
美濃を攻略した信長は、稲葉山城を改修して「岐阜城」と名を変えた。その後、いよいよ足利義昭を奉じて上洛(じょうらく:京都へ進軍)を開始する。室町幕府が実質的な力を失って久しい京の街では、荒廃が進み、治安も乱れていた。

ところが、信長の軍勢が都に入るや否や、あちこちの不逞(ふてい)の輩が排除され、京の秩序はみるみる回復していく。町衆からは「これこそが新しい天下人かもしれない」という声が上がりはじめた。

【会話】

  • 【足利義昭】(晴れやかな表情で)
    「こうして無事に将軍宣下(せんげ)を受けることができました。信長殿の助力に感謝いたします。これよりは室町幕府再興のために……。」
  • 【織田信長】(冷静な口調で)
    「義昭様、ここからが肝心です。将軍に就任されたからには、わしのやり方に口を出さぬでいただきたい。都の治安維持や各地への指令は、すべてわしが取り仕切ります。」
  • 【足利義昭】(わずかに困惑)
    「むろん、京の安定は何より大切。しかし、朝廷とのやりとりや礼儀作法は幕府の伝統もありまして……。」
  • 【織田信長】
    「伝統か。もちろん重んじるつもりはあるが、古いしきたりに縛られていては時代は変わらん。わしは“天下布武”を掲げ、武力と新しい仕組みで乱世を終わらせるつもりだ。」

義昭の側近として仕えていた明智光秀は、このやりとりを静かに聞いていた。光秀もまた、乱世の終わりと新秩序の確立を願っていたが、義昭と信長の関係に微妙な緊張感が生まれつつあるのを感じ取る。

一方、京の町では豪華な行列が行われ、将軍就任を祝う人々が賑わっていた。柴田勝家や池田恒興らも、露骨に不満を示すことはなく、信長の新体制を支えている。しかし太郎は、どこか胸騒ぎを覚える。
(室町幕府の将軍がいるのに、実際に権力をふるっているのは信長様……いったい、ここから何が起こるんだろうか?)


シーン4.義昭追放と室町幕府の終焉

【情景描写】
翌年以降、諸大名や寺社勢力が結集して「反信長包囲網」を作り出そうとする動きが目立ち始めた。その裏には義昭の意向があったとも言われる。将軍としての威厳を取り戻すため、義昭は信長の勢力を削ごうと暗躍していたのだ。

京の御所近くでは、信長が義昭に対し激しい口調で問いただしていた。柴田勝家や池田恒興、そして光秀もまた、その場に同席している。

【会話】

  • 【織田信長】(声を荒らげて)
    「義昭様、あなたが裏で手を回して、一向一揆(いっこういっき)や他の大名にわしを討つよう呼びかけているのは知っておる。将軍の名を盾に、わしの邪魔をするつもりか!」
  • 【足利義昭】(動揺しながらも凛とした姿勢)
    「信長殿、もはやあなたのやり方は、幕府の伝統を無視し過ぎる。民の声も聞かず、力だけで押さえ込むようでは、いずれ大きな反発が起こる。」
  • 【織田信長】
    「幕府の伝統? そんなものは、もはや形骸(けいがい)に過ぎん。あなたが掲げるその権威で、いったい何が守れたのだ。わしが武力で各地を治めたからこそ、京も平穏になったのではないか!」

義昭は憤然とし、周囲の大名や僧侶たちに視線を向ける。しかし、この場で信長に真っ向から抗う者はいない。明智光秀も唇をかむだけで、静かに視線を落としている。

  • 【柴田勝家】(低い声で)
    「これ以上、殿と将軍家が争えば、京は再び混乱に陥ります。義昭様……どうかご退去いただきたい。」
  • 【足利義昭】(苦々しく)
    「……ここまでか。よい、出て行くとしよう。これで室町幕府の権威も終わりだな……。」

義昭は護衛の者とともに京を出奔し、各地を転々とする。一方、信長はこれを機に事実上、室町幕府を解体したのと同じ状態となる。

太郎はその様子を遠巻きに見ながら、複雑な思いにとらわれる。(将軍様がいなくなった今、いったい日本はどう変わっていくのだろう。織田信長様の言う“新しい時代”とは、どんなものなのか……?)

かくして、240年近く続いた室町幕府は終焉を迎えた。これから先、信長が打ち立てる新秩序は、まだ多くの戦乱を孕んでいるのかもしれない。それでも“天下布武”の炎は消えず、ますます大きく燃え上がろうとしていた――。


あとがき

本エピソードでは、織田信長が足利義昭を擁立して上洛し、最終的に義昭を追放して室町幕府が事実上滅亡する流れを描きました。

「応仁の乱」以降、名目だけが残っていた室町幕府は、信長という革命児の登場によって完全に終わりを告げることになります。将軍という存在がいながら、実際には武士の力で政局を動かす時代へと移行する――これは日本の権力構造に大きな転換をもたらしました。

信長が掲げた「天下布武」は、古い枠組みを壊し、新しい仕組みで国をまとめ上げようとする意思の表れとされています。その一方で、足利義昭や伝統勢力からは「乱暴で容赦ない」という批判もあったのです。

歴史は勝者だけの物語ではありません。当時を生きた人々が何を思い、どんな希望や恐れを抱いていたか――本作のようなドラマ形式で、その時代の空気を少しでも感じ取っていただければ幸いです。

次回:【Ep.4】豊臣政権の確立 ~秀吉の全国統一と大陸進出~


用語集(歴史を学ぶうえで重要な用語の解説)

  • 室町幕府(むろまちばくふ)
    14世紀半ばに足利尊氏(あしかが たかうじ)が開いた武家政権。京都の室町に幕府を置いたため、この名で呼ばれる。15代将軍・義昭の追放により事実上滅亡。
  • 足利義昭(あしかが よしあき)
    室町幕府15代将軍。兄・義輝の死後、各地を流浪していたが、織田信長の力で将軍の座に就いた。のちに信長との対立から京都を追放される。
  • 天下布武(てんか ふぶ)
    信長が使った印判(いんばん)に刻まれた言葉。「天下に武を布く」、武力によって全国を平定するという意味だと考えられている。
  • 反信長包囲網(はんのぶなが ほういもう)
    信長の拡大政策に反発した諸大名や寺社勢力が結集し、信長を討とうとした動き。一向一揆(いっこういっき)や朝倉氏、浅井氏などが加わるも、信長の戦略により大半は瓦解した。
  • 稲葉山城(いなばやまじょう)・岐阜城(ぎふじょう)
    美濃の斎藤氏の本拠地だった稲葉山城を、信長が攻略後に改修して「岐阜城」と改名した。天下取りの拠点として有名。
  • 上洛(じょうらく)
    将軍や天皇のいる京都へ軍を率いて進むこと。戦国大名にとっては権威を得るための重要な行動だった。

参考資料

  • 中学校歴史教科書(東京書籍・日本文教出版・帝国書院など)
  • 『信長公記』(太田牛一 著)の現代語訳
  • ルイス・フロイス『日本史』
  • 今谷明『信長と将軍義昭』講談社学術文庫
  • 谷口克広『信長公記を読む』講談社現代新書

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