【Ep.7】日露戦争と日本の台頭

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全体構成案(シーン概要)

  1. シーン1:「ロシアの南下政策と極東の緊張」
    • 時代背景:1890年代末~1903年頃
    • 主な登場人物:健太、父、新聞記者(在野の民権家)、政府高官(言及)
    • 内容:三国干渉(エピソード5)以降、ロシアが満州や朝鮮半島に勢力を広げる動きが強まる。日本国内では「いつかロシアと衝突する」と予感する声が高まり、軍拡の必要を訴える世論が盛り上がる。
  2. シーン2:「開戦へ──対ロシア交渉の失敗」
    • 時代背景:1903年~1904年初頭
    • 主な登場人物:健太、小村寿太郎(外務大臣)、乃木希典(陸軍将官・言及)、町の人々
    • 内容:ロシアとの外交交渉が難航し、国内世論が開戦を後押し。やがて1904年2月に日露戦争が勃発。国民の意気が高揚する一方、健太は複雑な思いを抱く。
  3. シーン3:「旅順攻略と日本海海戦の衝撃」
    • 時代背景:1904年後半~1905年5月
    • 主な登場人物:健太、乃木希典(旅順攻略の指揮官)、東郷平八郎(海軍司令長官)、父
    • 内容:旅順要塞攻撃の悲惨さ、苦戦を伝える新聞報道、そしてバルチック艦隊との日本海海戦で日本海軍が大勝利を収め、世界を驚かせる様子を描く。
  4. シーン4:「ポーツマス条約と国民の不満」
    • 時代背景:1905年~1906年頃
    • 主な登場人物:健太、小村寿太郎(ポーツマス条約交渉全権)、在野の新聞記者、町の民衆
    • 内容:アメリカ大統領ルーズベルトの仲介で講和が成立するが、賠償金が得られなかったことに民衆が怒り、日比谷焼打事件が勃発。国民が感じた「勝っても得るものが少ない」不満を描く。
  5. エピローグ:「列強の仲間入りと国内の動揺」
    • 日露戦争の勝利で国際的地位を高めた日本。しかし、国家財政の疲弊や多くの戦死者・負傷者、国民の重税への不満など、社会には新たな課題が山積。次回(エピソード8)へと続く。

登場人物紹介

  • 健太(けんた)
    シリーズ通して登場する青年。20代後半。商売を手伝うかたわら、激動する国際情勢にも強い関心を抱いている。日清戦争、産業革命を経て、今度はロシアとの戦いに不安を募らせる。
  • 健太の父
    元浪人の商人。日清戦争後の好景気を経験したが、次の対外戦争に対しては経済面や家族の安全を案じている。
  • 在野の新聞記者(民権家)
    世論の動きを取材しつつ、政府の政策に批判的な面も持つ。日露戦争開戦への流れや、講和条約を巡る国民感情を健太とともに見つめる。
  • 乃木希典(のぎ・まれすけ)
    陸軍大将。旅順要塞攻略を指揮したが、多くの犠牲者を出し、心を痛める。悲壮感のある指揮官として国民に知られる存在。
  • 東郷平八郎(とうごう・へいはちろう)
    海軍大将。日本海海戦でロシアのバルチック艦隊を破り、世界を驚嘆させる。国民からは“東郷びいき”と呼ばれ熱狂的に支持される。
  • 小村寿太郎(こむら・じゅたろう)
    外務大臣。ポーツマス条約の全権としてアメリカへ渡り、ロシアとの講和交渉をまとめた。しかし、賠償金が得られず国民の反発を招く。

本編

シーン1.ロシアの南下政策と極東の緊張

【情景描写】
1900年代初頭、東京の町には日清戦争以来の“欧米列強と肩を並べたい”という声が高まっていた。しかし、ロシアが満州に軍を駐留させ、朝鮮半島にも触手を伸ばしているという新聞報道が連日のように流れている。健太は店先で物資の積み下ろしをしながら、父と新聞記者の会話に耳を傾ける。

【会話】

  • 【新聞記者】
    「ロシアはシベリア鉄道を完成させて、極東への影響力を強めようとしている。満州や朝鮮に進出すれば、日本は脅かされるだろうね。」
  • 【健太の父】
    「三国干渉のときもロシアに泣かされたからな……。列強の中でもロシアは軍事力が大きいし、万一戦争になったら、どうなることやら。」
  • 【健太】
    「……だけど周りの人たちは『欧米に遅れないためにもロシアとやるしかない』って息巻いてる人も多いよ。新聞でも“避けられぬ衝突”なんて書かれてるし……。」
  • 【新聞記者】
    「世論もだいぶ先走ってるね。政府も軍備を拡張しながら、どうやってロシアと交渉するか頭を悩ませているはずだ。早まらなければいいんだが……。」

町のあちらこちらで「ロシアが攻めてくるなら日本が先に打って出るべきだ」という声も聞こえ、喧騒(けんそう)が広がる。日本社会には、日清戦争の勝利からくる自信が芽生えていたが、それが過剰な戦意につながりつつあるようにも見えた。


シーン2.開戦へ──対ロシア交渉の失敗

【情景描写】
1903年から翌年にかけて、外務大臣の小村寿太郎はロシアとの交渉を続けるも、なかなか合意に至らない。ロシア側は満州から軍を引く気配を見せず、日本に対して朝鮮半島を放棄するような要求をちらつかせる。

やがて1904年2月、ついに日本が対ロシア宣戦を布告する。東京の町は開戦の熱気に包まれ、世論は「今度こそロシアの脅威を跳ね返せ」と躍起になる。

【会話】

  • 【健太】
    「(ラジオ放送はまだ普及前の時代、実際は新聞を読む仕草)……政府がついに宣戦布告? こんなに早く、しかも相手はロシアだよ。日清戦争のときみたいにうまく勝てるんだろうか……。」
  • 【町の男A】
    「大丈夫さ! オレたちの陸軍は強くなったし、海軍は東郷提督がいるじゃないか。ロシア艦隊なんぞ叩きのめせるに違いない。」
  • 【町の男B】
    「政府も陸軍将官に乃木将軍を抜擢したとか。旅順って要塞を攻めるんだと。新聞によると“日本が勝つのは時間の問題”って話だぜ。」
  • 【健太】
    「(複雑そうに)うーん……。相手はヨーロッパでも有数の大国。そう簡単にはいかないんじゃ……。」

世論の高揚に包まれながらも、健太はロシアの潜在的な強さや、長引く戦争の恐ろしさを感じ取っていた。だが、多くの人々は「日本がロシアに勝つ可能性」を信じ、熱狂していた。


シーン3.旅順攻略と日本海海戦の衝撃

【情景描写】
開戦後、日本陸軍は清国・満州方面へ進軍し、旅順要塞(リョジュンようさい)の攻略を目指す。しかし、要塞は近代化された堅固な防備を誇り、日本側は大きな犠牲を強いられる。乃木希典率いる第三軍は幾度も突撃を繰り返し、多くの将兵が命を落とした。新聞には「苦戦」の文字が躍り、健太は不安を募らせる。

  • 【会話A:旅順の苦戦報道】
    • 【新聞記者】
      「(健太に)旅順攻撃はすさまじい惨状らしい。長引く砲撃戦で兵士も疲労困憊(こんぱい)。乃木将軍も息子さんを戦死で失ったって……。」
    • 【健太】
      「そんなに……。新聞では『攻めきれないなら、砲弾を降らせ続けるのみ』とか、悲惨な言葉ばかり。日清戦争のときとは大違いだな……。」

やがて1905年に入ると、ロシア本国から派遣されたバルチック艦隊が極東に到達するという報が日本を大いに緊迫させる。しかし、日本海軍は東郷平八郎の指揮のもと、対馬海峡(日本海海戦)でこの艦隊を迎え撃つ。
5月27日~28日にかけて、歴史に残る大海戦が繰り広げられ、結果は日本海軍の圧勝に終わった。

  • 【会話B:日本海海戦勝利の報】
    • 【町の男A】
      「やったぞ! ロシアのバルチック艦隊をほぼ全滅させたって! 大本営発表によると、東郷提督は奇跡の戦果を上げたらしい!」
    • 【町の男B】
      「これでロシアは海上補給路を失い、もう戦争を継続できねえだろう。日本は大勝利だ!」
    • 【健太】
      「(驚きと安堵の混じった表情)そんな大艦隊に勝てるなんて……。この国の軍隊は、いつの間にこんなに強くなったんだ……。」

熱狂する世論。一方で、健太は旅順で多くの犠牲が出たことを思い出し、完全に喜べない気持ちもある。勝利は勝利だが、これまで払った代償もまた大きかった。


シーン4.ポーツマス条約と国民の不満

【情景描写】
1905年、ロシアが各地での敗北や革命運動の勃発により、アメリカ大統領ルーズベルトの仲介を受けて講和交渉に応じる。日本の全権は外務大臣・小村寿太郎が担当し、アメリカのポーツマスで交渉が行われた。

交渉の結果、日本は南樺太や旅順・大連の租借権を得たものの、国民が期待していた巨額の賠償金は得られないまま講和が成立してしまう。

  • 【会話A:条約の報せ】
    • 【健太】
      「(新聞を読み)結局、賠償金はなし……? 南樺太は手に入れたとはいえ、国民は期待してたのに。」
    • 【新聞記者】
      「小村外相も苦渋の選択だろう。アメリカもロシアも、日本への賠償には反対の立場だったようだからね。これ以上戦争を続けるには、日本も財政的に厳しいし……。」

ところが、戦費調達に苦しみ、国内で重税に耐えていた民衆は「勝ったのに賠償金がないなんて!」と怒りを爆発させる。東京では大規模な抗議デモが起こり、日比谷焼打事件へと発展した。
日比谷公園を中心に暴徒化した群衆が、警察署や新聞社などを襲い、多数の逮捕者を出すほどの混乱に陥る。

  • 【会話B:日比谷焼打事件】
    • 【町の男A】
      「ふざけるな! あれだけ血を流したのに、見返りが少なすぎる! 小村は何をしてるんだ!」
    • 【健太(必死になだめる)】
      「落ち着いてくれ! 政府だって、これ以上戦争を長引かせたら国が持たないって判断したんだろう。みんなが苦しむのは同じだ……。」
    • 【町の男A】
      「勝ったならそれ相応の賠償があるはずだ! こんな講和じゃ、血を流した兵隊たちが浮かばれん……!」

健太は暴徒化する人々を見て胸が痛む。戦争に勝ったはずなのに、多くの戦死者や財政負担、しかも賠償金なしの講和。国民の鬱憤(うっぷん)は容易に収まりそうになかった。


エピローグ:「列強の仲間入りと国内の動揺」

日露戦争に勝利した日本は、世界の列強の一員として認められた。しかしそれは、軍拡や戦費調達に国の財政を傾けた末の“かろうじて”の勝利でもあった。

満洲や朝鮮半島への権益を獲得し、帝国主義の道をさらに進もうとする流れと、重税や経済格差に苦しむ庶民の実情は深刻なまでに乖離(かいり)していた。

健太は、勝利に浮かれる周囲と、暴動を起こす民衆のはざまで、この国の行く末を強く案じる。軍事力で列強に並ぶことが、果たして本当に国民の幸せにつながるのか――。

次回(エピソード8)では、明治の終焉と文化・思想の成熟、さらなる社会変化を描くことになる。


あとがき

本作(エピソード7)では、日露戦争を取り上げ、日本が列強の仲間入りを果たすきっかけとなった一方で、その勝利が多くの犠牲と国内の不満を招いたことを描きました。

  • ロシアとの戦いは、旅順攻略のように悲惨な陸戦や、日本海海戦での劇的な海戦勝利など、国民の感情を大きく揺さぶりました。
  • ポーツマス条約によって日本は南樺太や遼東半島(旅順・大連)などを得たものの、期待された賠償金が得られなかったことで民衆が激怒し、日比谷焼打事件に発展。戦勝国ながら国内は混乱し、国民が「勝った気がしない」という後味の悪さを抱えることになりました。
  • 一方、日本の国際的地位は大きく向上し、欧米列強から「極東の新興国」として一目置かれるようになります。しかし、それはさらなる軍拡や帝国主義政策への道を開くことにもつながり、国内外に新たな不安の種をまく結果となりました。

次回エピソード(エピソード8)では、明治が終わり、大正へと続く新時代の幕開けや文化の成熟、そして社会問題の深刻化を描きます。中学3年生の皆さんには、日露戦争後の日本社会が抱える矛盾や課題を追いながら、「近代国家とは何か」「戦争は本当に国民を幸せにするのか」を考えてほしいと思います。


用語集(歴史を学ぶうえで重要な用語の解説)

  • ロシアの南下政策
    ロシア帝国が黒海やバルカン半島、シベリア方面を拡大し、さらに太平洋(極東)への進出を図った政策。日本とは満州や朝鮮半島で利害が衝突。
  • 乃木希典(のぎ・まれすけ)
    日露戦争において旅順攻略を指揮した陸軍大将。自身の息子2人を戦死で失い、多くの兵士を犠牲にしたことで責任を感じ、のちに大きな精神的苦悩を抱えたとされる。
  • 日本海海戦(にほんかいかいせん)
    1905年5月、バルチック艦隊と日本海軍が対馬海峡で衝突。東郷平八郎率いる日本海軍が大勝利を収め、世界を驚嘆させた。
  • 東郷平八郎(とうごう・へいはちろう)
    日本海軍の提督(海軍大将)。日本海海戦でバルチック艦隊を撃破し、一躍国民的英雄となる。
  • ポーツマス条約(ポーツマスじょうやく)
    1905年、アメリカのポーツマスで調停された日露戦争の講和条約。日本の全権は小村寿太郎。日本は領土や権益を得たが、賠償金は得られず、国内で大きな反発を招いた。
  • 日比谷焼打事件(ひびややきうちじけん)
    ポーツマス条約の内容に不満を抱いた群衆が、東京の日比谷公園周辺で暴動を起こし、警察署や新聞社などを焼き打ちした事件(1905年9月)。

参考資料

  • 中学校歴史教科書(各社)「日露戦争と日本の国際的地位」
  • 乃木希典・東郷平八郎に関する伝記・資料
  • 小村寿太郎『小村外交史料』
  • 日比谷焼打事件に関する新聞記事・研究論文

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