全体構成案(シーン概要)
- シーン1:昭和から平成へ
- 昭和天皇の容体悪化と崩御の報道
- 改元「平成」の発表に揺れる人々の心情
- シーン2:新時代への期待
- 平成の始まりを感じさせる町の様子
- 主人公の学校での話題、クラスメイトの期待と不安
- シーン3:バブル経済の熱狂
- 主人公の家族がバブルの恩恵を受けている様子
- テレビや新聞で取り上げられる「地価高騰」「証券投資ブーム」の描写
- エピローグ:静かな幕引き
- 平成への改元から数ヶ月後の日常
- 主人公の視点で見た“これからの日本”への一抹の不安と期待
登場人物紹介
- 守谷 聡(もりや さとし)
中学3年生の主人公。新聞の見出しやテレビニュースをよくチェックしており、社会の動きに興味を持ち始めている。 - 守谷 誠(もりや まこと)
聡の父親。中小企業に勤務しているが、バブル景気の影響で会社の業績が好調。海外旅行や新車購入を検討中。 - 守谷 雪乃(もりや ゆきの)
聡の母親。最近の消費ブームに少し心浮かれ気味。新しいブランド品を買う話などに興味津々。 - 山科 莉央(やましな りお)
聡の同級生で幼なじみ。気が強く、テレビで報道される社会ニュースに敏感。将来は報道関係の仕事に興味を持っている。 - 加藤 慶太(かとう けいた)
聡のクラスメイト。家が不動産関係の仕事をしており、バブル景気で活気づいているらしい。 - 川辺 教諭(かわべ きょうゆ)
社会科の教師。日々のニュースや時代の変化を授業で取り上げ、生徒に社会問題への関心を促す。
本編
シーン1.昭和から平成へ
【情景描写】
1989年1月上旬、冬の冷たい空気が校庭を包む。曇りがちな朝の空を見上げながら、聡は胸騒ぎを覚えていた。テレビニュースでは連日、昭和天皇の病状を報道しており、登校前に流れていたニュース速報がいっそう不安をかき立てる。
校舎の廊下には、朝からざわめきが広がっていた。誰もが「何か大きなことが起きそうだ」と感じている。職員室からは、神妙な面持ちの川辺教諭が出てきて、ホームルームの始業ベルを合図に教室へと向かう。
【会話】
- 【川辺 教諭】
「皆さん、今朝のニュースは見ましたか? 昭和天皇のご容体が急変したという報道がありました。もしかすると、今日中にも大きな発表があるかもしれません。落ち着いて、まずは授業に集中しましょう。何かわかったらお知らせします」 - 【山科 莉央】
(小声で聡に)「こんなに連日報道されてたから、やっぱり……昭和天皇のご容態、もう危ないのかな」 - 【守谷 聡】
「……だろうね。もし崩御されたら、時代が変わるってことなのかな。改元って、実際に経験するのは初めてだよ」 - 【加藤 慶太】
「改元かぁ。平成っていう名前になるって噂もあったけど、本当かな。なんかソワソワするな」
ホームルームが始まり、クラスメイトたちは教壇の川辺教諭の言葉に耳を傾ける。朝礼のために職員室へ向かった生活指導の先生が、青い顔で戻ってきて一言、「昭和天皇が崩御された」と告げた。その瞬間、教室からは大きなどよめきが起こり、全員が息を呑んだ。
シーン2.新時代への期待
【情景描写】
それから数日後。学校では臨時の放送や校長先生の話などが続き、厳粛な空気が流れていた。テレビでは連日、昭和天皇の葬儀の様子や「平成」という新しい元号の解説が繰り返し行われている。
生徒たちは、社会科の授業で「改元とは何か」「昭和という時代がどんな歴史を歩んできたのか」を学び始めた。一方で新しい時代「平成」への期待感も少しずつ膨らんでいる。
【会話】
- 【川辺 教諭】
「昭和から平成へ——国が新しい時代を迎える瞬間です。昭和が64年続いた長い時代だったことは皆さんもご存じですよね。戦争を経て、復興、そして高度経済成長……いろいろな出来事がありました。今度の“平成”という元号には“国の内外にも天地にも平和が達成される”という願いが込められているそうですよ」 - 【山科 莉央】
「そう聞くと、すごく希望のある時代って感じがします。戦争を知らない世代として、平和な時代が続くならいいな」 - 【守谷 聡】
「だよね。テレビで解説してたけど、“平成”って字面も綺麗だし。なんだかこれから大きく何かが変わる気がする……」 - 【加藤 慶太】
「うちの親父が言うにはさ、今は“バブル景気”ってやつで、株とか土地とかが値上がりして、景気がいいらしいよ。平成に入ってもっと盛り上がるんだって!」 - 【川辺 教諭】
(苦笑いしながら)「バブル景気か……景気がいいのは確かですが、今の熱狂がいつまでも続くという保証はありませんよ。歴史を学ぶ意味は、こうした浮かれた雰囲気の中にも、先人の失敗や成功の事例を学んで、どう生きるかを考えることです。みなさんも、たくさん調べてみましょう」
授業が終わるころには、教室中がどこか新しい風を感じていた。やがてチャイムが鳴り、休み時間になると生徒たちは廊下へ飛び出し、「平成ってどんな時代になるんだろう」と口々に話し合うのだった。
シーン3.バブル経済の熱狂
【情景描写】
放課後、聡は父親の誠と待ち合わせをして銀座の街へ出かける。駅を出ると、まばゆいばかりのネオンや大きな看板が目に飛び込んできた。ブランドショップや高級百貨店のショーウインドウには、豪華な商品の数々が並び、行き交う人々は上機嫌に見える。
あちこちの店舗でセールやイベントが行われ、人々は財布を惜しみなく開いている。まだ中学生の聡には、まるでお祭りのような喧騒と熱気が異様にも感じられた。
【会話】
- 【守谷 聡】
「父さん、ここすごいな……。なんだかみんな、買い物を楽しんでるっていうより“浮かれてる”ように見えるよ」 - 【守谷 誠】
「そうかもしれないな。でも今は会社も好調だし、年末にはボーナスも期待できるんだよ。だから母さんも『海外旅行に行きたい』なんて言い出しててさ。せっかくだから家族でハワイに行こうかと思ってる」 - 【守谷 聡】
「ハワイ……? 本当に行けるの? うち、そんなにお金あった?」 - 【守谷 誠】
「うん、まあ多少ローンを組んでも大丈夫だろうって。銀行も簡単に融資してくれるしな……。バブル景気ってのは、こういう時代なんだろうな」
父親の誠は目を輝かせながら、デパートで見つけたスーツを買って帰ろうかと迷っている。聡はそれを横目で見つつ、つい最近教科書で学んだ「好景気とその反動」について思い出していた。戦後の高度成長期もあれば、オイルショックのような不景気もある。
- 【守谷 聡(心の声)】
(今は勢いがあっても、いつかはこの空気が変わるかもしれない。でも……父さんも母さんも楽しそうだ。平成になって、なんだか大人たちはみんな新しい時代を歓迎してるように見える。俺もそのうち、こういう風に景気の波に乗るのかな)
ネオンがきらめく中、誠は「結局スーツは今度にしよう」と言って少し笑う。二人は夜の街を歩きながら、家路へと急いだ。
エピローグ:静かな幕引き
それから数か月後の春、平成最初の年度が始まった。校内アナウンスで新しい校長先生の挨拶が流れ、「平成」という言葉が教室でも当たり前に使われるようになった。
一方で、街やテレビでは“バブル景気”がピークに差しかかっていると囁かれている。慶太の家は好調な不動産ビジネスで儲かり、山科は「次はどんな社会ニュースが飛び出すのか」と新聞部に入って活動を始めると言う。聡はそんなクラスメイトの姿を見ながら、「平成」という新しい時代への期待と、不思議な不安を同時に感じていた。
- 【守谷 聡(心の声)】
(昭和が終わって平成になった。だけど、それってただ“名前”が変わっただけじゃないんだろう。大人たちはみんな浮かれているけど、先生が言ってたように景気はいつか変わるかもしれない。それでも、この新しい時代に僕らはどう生きていくんだろう。……今はまだ答えは出ないけど、それを考えるのも“歴史”を知るってことかもしれない)
そう思いながら、聡はグラウンドに出る。やわらかい春の日差しの中、校庭には次の世代を担う生徒たちの笑い声が響いていた。
あとがき
この物語は、昭和から平成へ移り変わる瞬間に焦点を当て、当時の社会的・歴史的背景を中学生の視点で描いたものです。昭和天皇の崩御をきっかけに、新しい元号が制定され、国中が独特の厳粛な空気と、同時に「平成」への希望に包まれました。また、バブル経済真っ只中だった日本社会は、土地や株価の高騰で“お金が湧いて出る”ような錯覚に陥り、多くの人々が消費に浮かれていました。
しかし、景気の波は常に上下を繰り返します。バブルがはじけると、やがて失われた時代がやってくるのですが、ここではまだ「熱狂の前夜」という雰囲気を伝えています。
次回:【Ep.2】弾ける夢――バブル崩壊と失われた10年の幕開け
用語集(歴史を学ぶうえで重要な用語の解説)
- 昭和天皇崩御(しょうわてんのうほうぎょ)
昭和天皇が1989年1月7日に亡くなられたこと。天皇が亡くなることを「崩御(ほうぎょ)」という。これにより昭和が終わり、平成へと時代が移った。 - 改元(かいげん)
年号(元号)を改めること。天皇の代替わりによって元号が変わる。1989年1月8日から平成元年となった。 - バブル経済
土地や株式などの資産価格が、実体経済以上に急激に高騰し、人々が過剰に投資や消費をする状態。1980年代後半から1990年前半まで日本は「バブル景気」と呼ばれた好景気を経験した。 - 株価(かぶか)
企業の株式が取引される価格のこと。企業の業績や景気によって値動きがあり、経済の指標の一つとなる。 - 平成(へいせい)
日本の元号。昭和に続き、1989年1月8日から2019年4月30日までの時代を指す。「内外、天地とも平和が達成される」という願いが込められているとされる。
参考資料
- 文部科学省検定済教科書(社会科・歴史分野)
- NHKアーカイブス「昭和から平成へ」関連ニュース映像
- 総務省統計局「日本の長期統計系列」(バブル経済期の経済指標など)
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