全体構成案(シーン概要)
- シーン1:「招致が決まったあの日」
- 小学生だった健太が、2013年に東京オリンピック招致決定のニュースを見て興奮する。
- 家族とともに2020年開催に向けて大きな期待を膨らませ、夢を抱く。
- シーン2:「コロナ禍での延期と混乱」
- 中学3年生となった健太は、新型コロナウイルスの影響で大会が1年延期になるという報道にショックを受ける。
- 予定が大きく変わり、無観客や制限つき開催への不安が高まる中で、それでもアスリートを応援し続ける姿が描かれる。
- シーン3:「バトンをつなぐレガシー」
- 大会がついに開催され、健太はテレビ観戦を通じて心を動かされる。
- パラリンピックを初めて真剣に見ることで、多様性や共生社会の意義に気づく。
- 大会終了後、健太が感じた「スポーツの力」や「レガシー」について考え、次世代へつなぐ決意をする。
- あとがき・用語集・参考資料
- オリンピック・パラリンピックの意義や歴史的背景を簡単にまとめ、作品を振り返る。
- レガシー(大会後の遺産)や多様性を学ぶための参考資料を提示。
登場人物紹介
- 健太(けんた)
中学3年生。スポーツ観戦が大好きで、特に陸上競技やサッカーに興味がある。東京オリンピック開催を幼い頃から心待ちにしていた。 - 浩司(こうじ)
健太の父。営業職。スポーツ観戦仲間として、健太と一緒によくテレビで試合を見る。コロナ禍では在宅勤務が増え、仕事のやり方が大きく変わった。 - さやか
健太の母。医療関係の仕事に携わっており、コロナ禍の最前線に近いところで働いているため、感染症対策に特に敏感。 - 大林先生(おおばやしせんせい)
健太の社会科担当。オリンピックの歴史やパラリンピックの意義について授業で取り上げ、健太の興味をさらに深めてくれる。 - クラスメイトたち
同じ中学3年生で、東京2020についてさまざまな意見や関心を持つ。
本編
シーン1.招致が決まったあの日
【情景描写】
2013年秋、健太は小学4年生だった。テレビの画面に「TOKYO 2020開催決定!」という大きな文字が踊り、アナウンサーやスタジオの人々が歓喜の声を上げている。
夜更けのリビング。健太は父・浩司と母・さやかとともにその瞬間を見届けていた。時計は真夜中を回っているが、眠気も吹き飛ぶ興奮を覚える。
【会話】
- 【健太】
「やったー! 東京でオリンピックがあるんだね! すごい、すごい!」 - 【浩司(父)】
「日本でオリンピックをやるのは、1964年以来なんだ。お父さんも生まれてない頃だからなぁ……まさか自分の息子と一緒に体験できるなんて夢みたいだよ。」 - 【さやか(母)】
「健太が2020年にはいくつになってるのかしら?……高校1年生くらいね。実際に競技場に行けるかも。見に行きたいよね?」 - 【健太】
「うん、絶対行きたい! 陸上競技の100メートルとか、世界のトップスプリンターの走りを生で見たいよ!」
健太はワクワクした表情で、テレビに映る関係者たちの笑顔を見つめる。まだ7年も先のことだけれど、その日を目指して自分自身も走り続けたい――そう心に決めたのだった。
【情景描写】
テレビでは、開催地決定の舞台裏や、誘致活動に関わったアスリートたちの会見映像が流れる。夜の静かな団地の一室なのに、健太の胸の中には熱い炎がともったようだった。
シーン2.コロナ禍での延期と混乱
【情景描写】
2020年春。健太は中学2年から3年に進級したばかり。部活は陸上部で短距離走を頑張っている。もうすぐ待ちに待った東京オリンピックが開幕……のはずだった。
しかし、世界的に猛威を振るう新型コロナウイルス感染症のため、大会が1年延期されるというニュースが駆け巡る。
【会話】
- 【健太】
「お父さん、これ……延期だって。まさかオリンピックが延期になるなんて……夢にも思わなかった。」 - 【浩司(父)】
「俺も驚いたよ。でも、世界中で感染が拡大してるし、大勢のアスリートやスタッフ、観客が集まるリスクを考えたら仕方ないんだろうな。」 - 【さやか(母)】
「私の病院でも、コロナ対応で大変な状況が続いてるわ。医療の現場が持ちこたえないとオリンピックどころじゃないものね。苦しい決断だったんでしょう。」
健太はもどかしい気持ちでいっぱいになる。楽しみにしていた夢の舞台が、目の前で延期になってしまった。部活も活動が制限され、実力を試す大会も中止や延期ばかり。それでも、世界のアスリートはこの苦境にどう立ち向かっているのだろう――そんな思いが頭を巡る。
【情景描写】
その後、感染が続く中でも開催へ向けた準備は進められた。メディアでは「無観客開催の可能性」「選手たちのコンディション調整」などが連日報道されるが、先行きは不透明。
一方で健太たちは学校で、分散登校やオンライン授業を経験しながら、「このまま東京2020はどうなるのかな」と友達同士で話し合う。
- 【クラスメイトA】
「ねぇ健太、もし無観客になったら、テレビでしか観れないよね?」 - 【健太】
「……正直、生で観戦したかった。だけど、大会が開催されること自体がすごいことかもしれないね。いま世界中がこんな状態だし。」
健太は複雑な思いを抱えながらも、「アスリートを応援したい」という気持ちだけは失わずにいた。
シーン3.バトンをつなぐレガシー
【情景描写】
2021年夏。東京2020オリンピック・パラリンピックが、1年の延期を経てついに開幕。中学3年生になった健太は、自宅のテレビ観戦で世界のトップアスリートの熱戦に胸を熱くする。
スタジアムに観客席が少ない種目、無観客の会場も多い。それでも画面越しに伝わってくる迫力や選手たちの想いは、かつてないほど強く感じられた。
【会話】
- 【健太】
「(テレビの陸上競技を見ながら)うわぁ……100メートル、やっぱりすごい迫力だ! 世界記録には及ばないけど、コロナ禍で十分練習できない中で、このタイムはすごいと思う。」 - 【浩司(父)】
「なあ健太、この大会って本当にいろいろな人の努力の結晶だよな。医療スタッフやボランティアの人たち、そして何より選手たちの諦めない姿勢。」 - 【さやか(母)】
「現場は大変だけど、こうして世界が繋がれる場を作り出すのは、やっぱりスポーツの力だと思うわ。」
健太はパラリンピックの開会式も欠かさずチェックした。車いすバスケットボールや視覚障がい者のマラソンなど、これまであまり目を向けていなかった競技に心を打たれる。
障がいや体の状態に合わせた工夫をこらした競技ルール、そして多様な選手たちが生き生きとプレーする姿に感動を覚える。
- 【健太】
「パラリンピックって、ただの“おまけ”じゃないんだね……。自分で障がいがあっても、こんなにエネルギッシュに動けるんだって知ると、なんだか勇気をもらえるな。」 - 【浩司(父)】
「オリンピックとパラリンピックはセットだよ。いろんな人たちが活躍できる場所があるって、素晴らしいことだな。」
大会が終わった後、健太の学校では大林先生が「オリンピック・パラリンピックの歴史とレガシー」というテーマで特別授業を行う。
【情景描写】
教室のスクリーンには、東京2020で競技する選手たちの写真や、競技施設の様子が映し出される。教壇に立つ大林先生は、モニターを指しながら説明を続ける。
【会話】
- 【大林先生】
「今回の大会は、多くの課題や批判もありましたが、その中で学んだことも多いと思います。たとえば、バリアフリー化が進んだり、ダイバーシティ(多様性)を尊重する風潮が高まったりね。『レガシー』と呼ばれる、大会後に残る財産をどう活かせるかが大切なんです。」 - 【健太】
「自分が想像していたのとはちょっと違う形になったけど、それでも開催されてよかったなって思います。アスリートたちの頑張りを見て、僕ももっと練習しようって思えました。」 - 【クラスメイトB】
「ほんと、最初は延期でガッカリしたけど、画面越しでも感動しちゃったよね。パラリンピックも勉強になったし、もっと知りたいと思ったな。」
先生は満足そうにうなずきながら、教室を見渡す。
- 【大林先生】
「素晴らしいですね。スポーツは国や障がいの有無、文化の違いを超えて人々を繋ぐ力がある。それを実感してくれたなら、この大会の意義は大きいと思います。今後も、みなさん一人ひとりが“レガシー”の担い手になっていってくださいね。」
健太は改めて、スポーツの持つ力と自分の将来について考える。コロナ禍や社会の変化の中でも、アスリートは限界を超えて努力し、多くの人を勇気づけた。自分にも何かできるはず――そう思うと、不思議なほど胸が熱くなる。
あとがき
「夢をつなぐ東京2020 ― オリンピック・パラリンピックがもたらしたもの」では、東京オリンピック招致決定から延期を経ての開催、そしてレガシー(大会が残した財産)にいたるまでを、中学生・健太の視点を中心に描きました。
現実には、開催そのものへの賛否や、コロナ禍での安全確保など多くの課題がありました。一方で、スポーツの祭典を通じて改めて注目されたのが「多様性の尊重」と「共生社会」の実現に向けた歩みです。
オリンピック・パラリンピックは世界中の人々を繋ぐ大きな力を持っています。健太のように、画面越しでもアスリートの情熱や想いを受け取った人も多いのではないでしょうか。
この作品が、みなさんにとって「スポーツの意味」や「社会に残るレガシー」を考えるきっかけとなれば嬉しいです。
用語集(歴史を学ぶうえで重要な用語の解説)
- オリンピック(五輪)
古代ギリシャを起源とする国際的なスポーツ競技大会。近代オリンピックは1896年に復興され、「平和とスポーツの祭典」として世界中の国・地域から選手が参加する。 - パラリンピック
障がいのあるアスリートが中心となる国際的なスポーツ競技大会。オリンピックと同じ開催都市で行われるのが通例で、近年はオリンピックと並ぶ大きな注目を集める。 - バリアフリー
段差の解消や施設の設計など、障がいの有無にかかわらず利用しやすい環境を整備する考え方。オリンピック・パラリンピックを機に公共交通機関や競技場などで導入が進んだ。 - レガシー
直訳すると「遺産」の意。オリンピックやパラリンピックなど大規模な大会の開催をきっかけに生まれた施設、技術、文化的な変化など、後世に残る財産を指す。 - ダイバーシティ(多様性)
人種、国籍、性別、障がいの有無など、さまざまな個性を認め合い、社会全体で受け入れること。パラリンピックなどを契機に注目が高まりつつある。
参考資料
- 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会公式サイト
- JOC(日本オリンピック委員会)・IPC(国際パラリンピック委員会)の関連資料
- 各種新聞・テレビ局の大会報道特集
- 公益財団法人日本障がい者スポーツ協会の紹介ページ
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